意欲を湧き立たせられる「待つ」介護

◆ビールにお酒、コーヒーに紅茶、好きな物はむせない!

高齢者の介護施設では、出来る限り今までの生活習慣で行ってきたもの
をなくさない様に取り組んでいる施設も結構あり、例えば年末年始のお
年取りやお正月を、特別な食事メニューにしたり飾り付けをしたり、施
設経営者が個人個人に挨拶をして回ったりしています。

お年取りやお正月に欠かせない物と言えば、お酒ですよね。昔の人は、
大みそかの特別番組を見ながらお鍋などを囲んだり、その家の主が年初
めに挨拶をし、今年一年も平穏無事に過ごせます様に・・・と、おせち
料理に舌づつみをうったりしたものです。この時に、お酒は欠かせない
ものでした。

実は、飲み込む機能が衰えてしまい、食べ物や飲み物でむせてしまう嚥
下障害という障害を抱える方も、お酒やビールは上手に飲む、という方
が多くいらっしゃいます。

一度、ビールにとろみがつくようにトロミ剤を入れてみた事例がありま
したが、まずくて飲めるものではありませんでした・・・。でも、普段
のお茶はとろみをつけなければむせてしまう人であっても、お酒は上手
に飲めるもの。これは、コーヒー好きの方であれば、コーヒーでも同じ
現象が起こります。

むせる原因とすれば、前述したとおり飲み込む機能が衰えているからな
のですが、それでも、自分のペースで好きな物を好きな様に食べると、
むせる事が少ない事は、今の介護の世界では常識になってきています。
ということは、むせるからと言って食事を介助することが、逆にむせさ
せてしまう引き金になる、という事です。

私たちがカレーを食べる時、スプーンに沢山すくって口に運ぶ人が多い
でしょう。でも、このすくう量は人それぞれですよね。口が大きくて食
べるのが早い人は、一回にかなりの量をすくいますし、逆に口が小さい
人はそんなにすくいません。

また、スープを飲む時、熱いかもしれないと思ってソロソロと飲むでし
ょうし、口を直接器につけて飲む場合には、口をすぼめますよね。この
行為は、汁物をこぼさぬ様、また一気にたくさん口に入れない為に無意
識のうちにとる行動であり、舌で熱を感じる機能を衰えさせないための
方法でもあります。

ところが、むせる人にこれを介助する場合、トロミをつけて、スプーン
で、食べ物と同じ様に一様に口に入れていきます。スプーンを口のどこ
に入れるかは、介助者によって違います。

そして、仕事なので食事の時間が大体決まっていますから、スタッフの
都合に合わせて食事を終わらせるためのペースとなりがちです。つまり、
食べ方、食べる量、食べる為に要する時間というのは人それぞれなのに、
介助する事によって、スタッフに合わせる形になっている訳です。

この事も、むせる原因の引き金になる事が知られています。

今の医学では、口から食べる事が出来なくなった時に栄養を確保する方
法としていくつかの手段がありますが、その内の一つに「経管栄養」と
呼ばれる胃に穴をあけて管を通し、栄養を流し込む方法があります。あ
る施設では、この経管栄養を延命措置と考え、出来る限りこの方法をと
らない事を施設の方針として家族に理解を求めている場合もあります。

というのも、その施設では昔、口から食べられなくなった人がいた時に、
家族の協力を仰ぎ、元気だった頃にどんな物が好きだったのか情報をも
らいそれを食べてもらおうとした事があります。

家族からの回答は「トースト」だったのですが、さすがに焼いたものは
無理だろうと焼いていないパンを出したのですが、食べようとしません。

そこで、配偶者が家でパンを焼いて持って来たところ、ペロッと美味し
そうに食べたのです。それ以降、体調も回復してきて食事が食べられる
までになった事がありました。

それとは逆に、すごい勢いで手づかみで食事を摂る方が居て、要介護状
態も悪くなってさすがにこれ以上は手づかみだとのどに詰まらせる危険
がある、とスタッフが介助を始めたのですが、一週間後にのどに食べ物
を詰まらせてしまいました。

この方にとっては、手づかみで食べる方法やペースこそが、この方の最
善な食事方法だったのだという事を裏付ける結果となりました。

◆りたい事をやらせてあげる

よく、子供を教えるのには心が動き出すのを待ちましょう、と言われま
す。同じ様に、高齢者の場合は、心と体が動き出すのを待つ必要があり
ます。

どういう事かと言うと、誰かにされるよりも例えゆっくりであっても自
分で出来る事はやった方が良い、という事です。これは、今ある本人の
機能を落とさないという目的だけではありません。一番の目的は、生き
ている事を感じてもらうためです。

というのも、高齢者の身体は、「今日できないから明日」という事が通
用しません。ただでさえ、病気や色々な状況で身体が言う事をきかなく
なっているのですから、「今日できなければ明日もできない」というの
が真実。

介助して手伝ってもらって、ラクだと感じるのは最初のうちだけです。
段々と、自分でやっていた時と違う方法やペースに戸惑いを感じ、苛立
ちすら感じる様になります。

食事の例を出せば、手づかみだろうがゆっくり食べようが、自分のペー
スで自分で食べるという事が重要なのです。栄養量が足りなければ、飲
む栄養剤やゼリーやプリンといったおやつの様に食べられる栄養補助剤
も沢山あります。

転倒する例も考えましょう。ベッドから自分で歩こうとして、でも歩け
なくて倒れ込んだり倒れてしまっているのを発見するケースは後を絶ち
ません。たいがい、この様なケースは「事故」と扱われますので、施設
としてはなんとか事故を防ごうと、あの手この手を考えます。

しかし、統計をとってみると、自分から動こうとした時に転んでしまう
場合と、介護者が何かしら関わっていた時に転んでしまう場合と、どち
らが骨折の発生が高いかと言えば後者の方です。

つまり、自分から動こうという意欲がある時には、例え何かしらのアク
シデントが起こったとしても、潜在的に誰かに頼らずに自分で自分の身
を守る様な意識が働いている気がします。

ですから、介護で一番必要なのは、時間通りに色々な事をこなしていく
事ではなく、高齢者本人の心を動かして、自分から動きだすのを待つ事
なのです。

◆動き出すには動機が必要。動機は想像力で造り出す!

もう一つ介護で大切なのは「想像力」です。当然誰しも、自分の事は自
分にしか解りません。どんなに優れたスーパードクターだって、高齢者
本人の心や身体を全て把握する事は出来ません。しかし、介護者は「私
には解らないから・・・」と言って放置するわけにはいきません。この
様な場合には、何が大切なのでしょうか。

一番簡単なのは、相手の立場に立って考えてみる事です。子供を教える
際、自分も同じ様な経験をしたのだったら、自分の経験を踏まえながら
上手な教え方が出来るものでしょう。しかし、高齢者の介護の場合は、
自分の経験を踏まえる事が出来ません。誰しも、未体験ですから・・・。

この様に相手の立場に立って考えるには、想像力が不可欠だという事な
のです。ただし、一人の想像力には限界があります。「三人寄れば・・」
ということわざが示す通り、人が多ければ多い程、考える引き出しは増
えていきます。

冒頭でも述べた様に、今の日本は超高齢化社会ですから、介護の経験を
話せる人はあふれています。要は、その場を知り、仲間づくりが出来る
かどうかだけ。

今までの日本の高齢者介護は、大変な事ばかりでした。だからこそ、色
々な人と話せば悩みを共有する事が出来、さらに経験やアイデアなどか
ら解決策も沢山もらえるもの。ですから、自分の悩みを口に出して言え
る場所がある事は、精神的な支えにもなるはずですし、それだけでもス
トレス発散になります。

介護とは、人の命を支える事と同じ重大な事ですから、怖がってしまう
のも判ります。しかし、それで消極的になってしまっても何一つ解決し
ていきません。チャレンジする心を持って、一つ一つ決断をくだし、一
歩一歩進む必要があるのではないでしょうか。その様に一生懸命にやれ
ば、例え結果がどうであっても「やって良かった」「これで良かった」
という答えに巡り合えるでしょう。

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